博物学探訪記

奥会津より

地元の名士になりなさい

少し前に、と言ってもどれくらい前だったか思い出せない。たぶん半年から一年前くらいだろう。それくらいの時期に、えらいてんちょう『静止力:地元の名士になりなさい』(KKベストセラーズ、2019年)を読んだ。 「えらいてんちょう」こと矢内東紀(やうちは…

共有地をつくる

2023年4月23日(日)14時34分現在、三島町では町長選挙の投票日となっている。僕はすでに期日前投票を済ませた。三島町の未来に幸あれ。 前回からの続きとなる記事を書いている。 hinasaki.hatenablog.com 奥会津の廃校の一室に求める機能は、書斎であり、娯…

森の校舎カタクリにて

2023年4月16日、午後2時20分現在。 三島町生涯学習センター「森の校舎カタクリ」の二年二組教室でこの文を綴っている。 「森の校舎カタクリ」正面 二年二組教室 久しぶりに、仕事や実務の用事を離れて文章を書いている。そうすると、濁流のようにこの時間に…

「生」と「世界」の映し方――押井守と映画論――

はじめに 押井守の映画には、2020年度の前期に読んだニーチェの『善悪の彼岸 道徳の系譜』(筑摩書房, 1993年)に連なるような思想があらわれていると思う。個人の主体化とそれに伴う責任の問題や、その問題を取り巻く社会情勢への見方に両者の類似点が垣間…

ニーチェにおける閉ざされた感応 ――〈ディオニュソス〉の翳りと〈権力への意志〉への没落――

1887年に刊行された『道徳の系譜』は、副題および巻頭言にあるように、「一つの論駁書」であり、「最近公刊された『善悪の彼岸』の補遺および解説」として世に出た。ゆえに、ニーチェが表現手段としてこだわったアフォリズムの形式が影を潜め、学術論文のよ…

群知堂読書会 課題本 フリードリッヒ・ニーチェ, 信太正三訳『善悪の彼岸 道徳の系譜(ニーチェ全集11)』筑摩書房, 1993年

テーマ:禁欲主義的理想による〈没意味〉からの離脱 人間の主体形成とその起源:〈良心の疚しさ〉 人間主体は、思考[1]/〈活動〉[2]によって形成される[3] 〈活動〉に〈作用〉[4]するのは〈権力への意志〉である 〈意志〉における〈約束〉[5]によって、人間…

2020年5月25日 集落誌調査 只見町大字只見(字沖、田ノ口を中心に)

2020年5月2日 集落誌調査 只見町大字黒谷

2020年4月13日 集落誌調査 金山町大字小栗山②:金山町小栗山の嫁入り

Aさん(昭和13年出生)は昭和34年の20歳のときに金山町小栗山の旦那さんの家に嫁いだ。小栗山は畑や田んぼが平じゃなかったので驚いたとされる。三島町西方の実家は裕福で何でもあったので、その落差にも驚いたのであった。実家は百姓のかたわら菓子屋をして…

2020年4月12日 集落誌調査 金山町大字小栗山

読書ノート 内発的発展論の外延 ――現代の奥会津における生活記録の捉え方――

1.はじめに:どこにいても異郷 2020年4月12日(日)に実施予定だった会津学研究会の読書会(新型コロナウィルス感染拡大防止のため延期)における課題本、赤坂憲雄, 鶴見和子『地域からつくる:内発的発展論と東北学』(藤原書店, 2015年)を読み終えた。…

BとCについて

前方にノートパソコン、スピーカーからはsportifyから流れるビル・エヴァンスの宗教的やさしさに聞こえる “Waltz For Debby”、右手はときおりマグカップに淹れたミルクティーをすすり、下半身はこたつにつっこまれている。Bが書いた手紙の一通目にときおり目…

読書会書評 あのとき特別だったものの先に

「うまくいえないんだけど、すごくかなしいときとか、すごくうれしいときとかに、目の前に世界があって、それって世界の切れっ端なんだけど、そのときその人にとっては、その切れっ端が、においも、色合いも、全部完璧だってことだとわたしは思ったわけ。な…

読書会 トーマス・クーン, 中山茂訳『科学革命の構造』みすず書房, 1971年(原書は1962年出版)

各自の報告を松崎なりにまとめると、本書評のテーマは「パラダイム――下から見るし、横からも見る――」ということになる。つまり、報告者はクーンのパラダイム論を、クーンに足りてない事柄およびそれぞれの視点と素材に基づき論じなおし、より広い枠組みで捉…

山形市探訪記

思えば、今年度はいろいろな場所を訪れた。 5月に沖縄に行き、7月には九州を旅し、そして9月は東北を移動して回った。 20代の最後の年としては、なかなかに充実していたのではないか。 とはいえ、同年代の友人が社会人としてそれなりの月日を過ごし、マン・…

ブログ再開

最後に記事を書いたのが9月ですね。 アクセス解析を見ていると、こんなきれぎれのブログにもちらほら訪問者がいることがわかります。ありがたいことです。 その間なにをしていたかというと、おもに東京の大学院に通って必要な単位を取るために授業を受けてい…

書評 小松理虔『新復興論』ゲンロン叢書,2018

本を買いに出かけ、喫茶店で読む自分と著者の関係 2018年9月7日。郡山は曇り。遅まきながら、小松理虔さんの『新復興論』(ゲンロン叢書, 2018年)を買いに行く。普段であればアマゾンなどの通販で書籍を買うが、この本はどうせ買うなら書店にまで足を伸ばし…

読書会@猪苗代町 渡辺京二『無名の人生』

2018年8月26日、晴れ。郡山市は気温が32度ほどだが、午前9時ごろからかなり暑く感じる。午前中に庭の家庭菜園の草むしりを行うも、顔や腕を蚊にさされまくり、30分ほどで断念する。農家のおばちゃんが虫除けのために顔を覆う帽子が欲しいと強く感じた。 準備…

長崎探訪記

2018年7月20日、夕方。博多駅から高速バスに乗り、長崎駅に到着。下の写真の時刻は16時15分ほど。 この日は駅近くのホテルにチェックインして、特に行動せず。 翌21日より、長崎探訪を行う。 長崎市の南北を中心に市電が走る。大人一回120円で、ほとんどの観…

湯布院探訪記

2018年7月23日。湯布院の民宿で起床。晴天だが、湯布院は標高が高いので気温はおそらく30度前後。福岡や長崎よりもずいぶん涼しく感じる。 駅前からの観光通りから東南に少しずれると、田んぼや農地が広がる。美しい。 朝食をすませ、荷物を宿に預かっていた…

博多探訪記

2018年7月20日。晴天。 天神周辺のビジネスホテルで目覚める。九州滞在2日目。 朝食を済ませて、探索に出向く。 街のふとした所に神社があり、住民の方が朝からお参りに訪れていた。 福岡県立美術館着。常設展示を見る。夏休み特集で、展示の工夫が凝らされ…

太宰府探訪記

2018年7月19日。快晴。気温36度。 成田空港よりジェットスターで福岡空港に向かう。 空港で国際線ターミナルに移動し、バスで大宰府に直行。運賃大人500円。 大宰府駅着。外国人旅行客の姿が目立つ。 駅から歩いて、昼食をとり、大宰府天満宮へ。 装飾や、朱…

厚切りジェイソン、藤井靖史、菅家博昭: 会津探訪の長い一日

2018年7月8日(日)晴れ 昼前に郡山から会津若松へ車で向かい、渡部さん・長谷部さんと合流して、会津風雅堂の講演会に参加する。 講演会「どうせ田舎?チガウダロ!~可能性だらけ!福島のこれから~」 @会津風雅堂 13時~15時 主催者:公益社団法人日本青…

岡田麿里『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』文芸春秋, 2017年

書評サイト「本が好き!」に書いたものを転載します。 www.honzuki.jp 岡田麿里という名前を覚えたのは、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2011年)というアニメ作品を見たときだが、それ以前から気に入って何度も見ていたアニメのいくつかは…

奥会津・昭和村探訪記

2018年6月9日 午前中まで本を読む。自分史および個人史の先行研究と理論をまとめている。 個人の人生や歴史を大きな歴史を、「全体」とされる歴史に位置づけるのではないあり方で、読み解くことはできないか? あるいは、歴史家のもつ「全体」意識の構築のさ…

小田嶋隆『上を向いてアルコール 「元アル中」コラムニストの告白』ミシマ社, 2018年

書評サイト「本が好き!」に書いたものを転載します。 www.honzuki.jp 『小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」: 世間に転がる意味不明』を愛読しているので、本書も出版時から気になっており、本日ようやく手にとって読む。「ア・ピース・オブ・警句」とい…

只見町探訪記

2018年4月23日、月曜日。奥会津は晴れ。 午前中はだらだらとしながら、ふみふみこ『ぼくらのへんたい』(リュウコミックス)を読む。 自己が求める性別、他者から求められる性別の葛藤が丁寧に描かれている。 性との付き合いは自我が芽生えてから死ぬまでず…

東洋文庫探訪記

2018年4月9日。郡山市からさくら交通の高速バスで東京駅へ。晴天。バスの中では音楽を聞いたり、寝たりしながら本も読む。ヘイドン・ホワイト, 上村忠男訳『歴史の癒法』作品社, 2017年 ホワイトの議論は歴史家による歴史の全体化についての指針を提供する。…

さかなのば

港町の魚屋さんで魚をつまみにお酒を飲んだら最高だよね という趣旨のイベントに、2017年12月10日に参加しました。 企画は小名浜のフリーライターである小松理虔さんで、主催の場所はさんけい魚店*1という小名浜にある魚屋さんです。 わたしが福島で生活する…

福島での生活

10年ぶりに、福島に戻ってきました イギリスの生活を終えたあとで、福島で生活をしています。 高校卒業を機に、実家のある福島県郡山市を出て、10年以上の月日が経ちました。福島出身者としては、どうしても2011年の震災が影響力をもち、自分と福島との距離…