博物学探訪記

奥会津より

2021-01-01から1年間の記事一覧

「生」と「世界」の映し方――押井守と映画論――

はじめに 押井守の映画には、2020年度の前期に読んだニーチェの『善悪の彼岸 道徳の系譜』(筑摩書房, 1993年)に連なるような思想があらわれていると思う。個人の主体化とそれに伴う責任の問題や、その問題を取り巻く社会情勢への見方に両者の類似点が垣間…

ニーチェにおける閉ざされた感応 ――〈ディオニュソス〉の翳りと〈権力への意志〉への没落――

1887年に刊行された『道徳の系譜』は、副題および巻頭言にあるように、「一つの論駁書」であり、「最近公刊された『善悪の彼岸』の補遺および解説」として世に出た。ゆえに、ニーチェが表現手段としてこだわったアフォリズムの形式が影を潜め、学術論文のよ…